電気自動車、ハイブリッド車のエネルギー効率評価方法

電気自動車、ハイブリッド車の
エネルギー効率評価方法

電気自動車(EV)をめぐる情勢の
シャシダイナモメータ試験(電費測定)

電気自動車(EV)は、走行中はCO2やNOx等の有害ガスを排出しない上に、車を動かすためにバッテリーに蓄える電力は、化石燃料に限らず風力や太陽光、地熱などの自然エネルギーや、再生可能エネルギーなど地球に優しいさまざまな資源から作り出すことができるという利点があります。また電気駆動の効率は、エンジン車に比べてかなり優れていることから、トータルとしてのCO2排出削減にも非常に有効です。さらにEVは音が静かで振動も少ない上に、走行距離あたりのコスト(電気代)がガソリンや軽油よりもかなり安価になるというメリットも大きいため、自動車としての可能性が世界的に注目されるようになり、急激に普及が進んでいます。
 ただしEVの課題としては、 (a)1充電航続距離の延伸、(b)移動先での充電設備の安定的な確保、(c)車両充電時間の短縮、(d)実用上問題のないパワー・ウェイト比、(e)搭載バッテリー性能等の長期に渡る信頼性、耐久性の確保などがあります。特に(a)は使用上の大きな課題であり、それを解決するには高いエネルギー密度、高耐久、軽量、低コストのバッテリー開発も重要となります。航続距離の延伸には搭載バッテリー容量を増やすのが有効ですが、背反要素となる車両重量増とのバランスも問題となります。これに対してリチウムイオン電池のように高いエネルギー密度を持つバッテリーが急速に進歩したこと、小型化とハイパワー化を両立させるモータ技術が進展したこともあり、カーボンニュートラルへの世界的な流れも受けて、EVの開発・普及が大きな広がりを見せています。ただし車両製造に必要な貴重資源の確保といった点も、流動的な世界情勢の影響を受けやすく大きな課題となっています。

電気自動車(EV)のシャシダイナモメータ試験(電費測定)

 エネルギー使用の合理化に関する法律(省エネ法)に基づき、EVのエネルギー消費効率をシャシダイナモメータ試験によって測定する方法が自動車審査基準に定められていますので、その方法について以下に簡単に紹介します。
EVの場合も、規定の試験モードサイクルをシャシダイナモメータ上で運転して、その時のエネルギー消費効率を評価する点では、ガソリン車、ディーゼル車の場合と共通です。ただしEVは消費エネルギーが電気のため、エネルギー効率は1km走行あたりの交流電力消費率で表示します。また1充電あたりの走行距離もユーザーがEVを使う上では重要な指標となるので、合わせて測定します。
 EVの平坦路走行抵抗の測定とシャシダイナモメータにおける負荷設定、等価慣性質量の設定などは、ガソリン車と同様な方法で行います。(→こちらを参照) 走行モードは、ガソリン車などと同じJC08モードやWLTCモードを使って試験します。
 台上試験によってEVのエネルギー消費効率、特に1充電走行距離を測定する方法の概念を下図に示します。

C=E×1000/D
C:交流電力量消費率(Wh/km)→公表
E:充電交流電力量(kWh)
D:1充電走行距離(km)→公表

EVの電費試験の手順

(1)試験車の主電池充電
 5~32℃の環境下で自動車製作者が指定した充電器と充電方法で、試験対象のEVの完全充電を行う。
(2) 台上モードサイクル運転の開始
 充電終了後4時間以内に、十分暖機したシャシダイナモメータ上で規定のモード走行を行う。
(3)モードサイクル走行の繰り返し実行
 1充電あたりの走行距離を求めるため、規定の試験モードを所定の打ち切り条件に達するまで繰り返し運転する。30分以上走行した後で3分以内のドライバー交代等の中断はOK。ただし中断の累積時間は15分以内。
(4)モード走行の終了
 サイクル運転の打ち切りは、EVの主電池残存容量警報装置等によって車両停止指示が出された場合、または電池残存容量の不足によりモード運転が維持できずモード追従の許容誤差の逸脱が継続した場合とする。
(5) 1充電走行距離の測定
 モードサイクル走行の開始から終了までの間にこのEVが走行した距離を、シャシダイナモメータのローラ累積回転数から算出する。この距離が1充電走行距離Dとなる。
(6)交流電力量消費率の測定
 試験終了後、2時間以内に試験車を充電電源に接続し、メーカーが指定した充電器と充電方法で主電池を完全充電状態まで回復させ、これに要した交流電源(充電器への交流電源の入力側)の充電電力量を測定する。

ハイブリッド車の燃費評価試験の方法

 当協会では、受託によりハイブリッド車の燃費・排出ガス試験も承っております。ただし下記に示すようなハイブリッド車特有の問題があるため、試験処理がかなり複雑になったり、あるいは正式な方法による試験が実施不可能といったケースも想定されます。ハイブリッド車の委託試験をJATAにご要望されるお客様は、あらかじめ試験内容、条件などにつきまして、JATA昭島研究室の技術課(☎042-503-7980、メールgijutu@ataj.or.jp)までご相談いただき、ハイブリッド車の評価における技術的課題を踏まえた上で試験を実施することに、ご理解。ご同意いただくようお願い申し上げます。

ハイブリッド車の特徴及び燃費評価における留意点

 ハイブリッド車は、右図に示すようにエンジンの回転力から得たエネルギーで発電してバッテリーに電力を蓄えるとともに、減速時の慣性力(マイナス慣性)の回転エネルギーを回生電力として利用することが一般的です。こうしてバッテリーに蓄電された電力エネルギーを使用して、駆動モーター単独あるいはエンジンと併用して車を走行させます。
 燃費モード試験の前後でバッテリーに蓄えられた電力量に差が生じていると、モード走行中に燃料と電気の間でエネルギー交換が行われたことになります。このことは、モード試験中に測定された燃料消費量が、ハイブリッド車のモード燃費の真の実力値を示していることにはならないと言えます。
 したがって、ハイブリッド車の燃料消費効率を評価するためには、試験前後でのバッテリーの蓄電量収支がゼロとなるように換算して評価する処理が特別に必要となります。

シリーズ/パラレル方式の場合

ハイブリッド車に置ける燃費及び排出ガスの評価方法

 EVに搭載された発電機及びモーターのコントロールは、ハイブリッド車のシステム設計上の重要な要素なので、試験時の車両の状態や運転条件によってきめ細かに制御されています。ハイブリッド車の燃費試験から車の燃費性能の実力値を算出するには、燃費評価モードを走行する前と後でバッテリーの蓄電量が等しくなるようにすることが理想ですが、モード走行中も発電機やモータの作動が車載のコントロールユニットによって細かく自動制御されていますので、バッテリー蓄電量の収支を試験に合わせて都合よく外部からコントロールすることは、ほぼ不可能といえます。
 そこで、ハイブリッド車の燃費評価を行う際は、右図に示すように、バッテリーの電気量収支QEとモード燃費との関係性をあらかじめ実験で求めておき、正式のモード燃費試験の際には、試験前後の電気量収支を測定するとともに、右図の補正式に基づく換算値を燃費の測定結果に加えるようにします。この処理は、試験前後でパッテリー電気量収支が変化しない状態、すなわち走行に要するエネルギーがすべて消費ガソリンに拠るとした時の燃費値に換算するための補正処理です。
 しかし右図の補正式を求めるには、かなりの試験データが必要となります。この点がハイブリッド車の燃費評価試験の実施上の課題となっています。

 上と同じ考え方をハイブリッド車の排出ガス測定でも適用するように試験法で規定されています。
 燃費の場合は、右上図のような相関性がある場合が多いのですが、規制対象の有害3成分(CO,HC,NOx)は、車の排出ガス低減システム(空燃比制御装置や三元触媒装置、触媒暖機システムなど)の状態やその基本性能に左右される特性が相当大きくなります。したがって右図に例を示すように、バッテリーの電気量収支と排出ガスの関係の相関性が乏しくなる傾向にあることが経験的に知られています。
 このような時は、バッテリー残量と排出ガスの間に相関性なしとして扱います。