A.ガソリンエンジンの排出ガスクリーン化への流れと対策技術
排出ガス規制はガソリン自動車からスタートしました。昭和50年頃に米国ではマスキー法による排出ガス規制強化がましたが、NOxを規制案のレベルまで下げることはエンジンの性能低下を招き技術的に実現不可能という声がわき上がり、強い反対の動きとなりました。結果的に米国ではその排出ガス規制は実施延期となりました。
同じ頃、日本でもほぼ同等レベルの排出ガス規制強化策が打ち出され懸念の声が上がりました。 しかし日本の自動車メーカーはCVCCエンジン(ホンダ)、ロータリーエンジン(マツダ)の開発など積極的にNOx低減に取り組み、他メーカーも排出ガス対策技術を開発したことで、当時としてはかなり厳しいNOxが0.25g/kmの53年規制が世界に先駆けて実施されました。(当時の日本では10モード)
ガソリン車の排出ガスを大幅に改善し、かつ燃費向上と両立させる最も有効な技術として確立されたのは、三元触媒システムです。三元触媒は、エンジンに供給する空気と燃料の重量比(空燃比)が理論混合比(14.6~14.8)の時に、排出ガス中の有害成分であるCO,HCとNOxを同時に浄化できる触媒装置です。(下図参照) しかしそのためには、広範な運転の条件のもとでも吸入空気量に応じた燃料量を正確に制御する技術が必要で、これを実現したのが電子制御燃料噴射システムです。また排気管に組み込まれたO2センサ(空燃比センサ)で燃料の濃い/薄いを瞬時に判別し、燃料供給量の調節のためフィードバック制御する巧妙な仕組みも実用化され、今ではほとんど全てのガソリン車で使われています。
このように三元触媒システムは極めて有効な排出ガス対策技術ですが、唯一の弱点とされたのが、エンジンが冷えた状態で始動した直後の排出ガス低減です。三元反応が機能するには触媒が一定温度以上に昇温していることが必要で、対策として小型のプレ触媒をエンジン排気弁近傍に設置したり、断熱型排気管で保温して排ガスの温度低下を防ぐ対策や、噴射燃料を微粒化し噴射タイミングをクランク角ベースで正確にコントロールすることで、吸気管壁面への燃料付着を防ぐ対策等が取られました。
その後、三元触媒とエンジン電子制御を組み合わせた排出ガス低減技術がさらに進展し精緻化されました。NOx規制レベルはJC08モードのホットスタートとコールドスタートのコンバイン条件で0.05g/kmとさらに強化されましたが、多くのガソリン車ではこのレベルよりも50%や75%も低減した、優、超-低公害車が多く市販され税制優遇も受けています。 さらに試験モードもWLTCモードという世界統一の試験モードに変更され、コールドスタートのみでモード走行を開始する試験方法に変わりました。
最近のガソリン車の流れとしては、燃費向上がいっそう求められ、低燃費エンジンやハイブリッド車の開発競争がいっそう盛んになっています。エネルギー利用効率の面では、理論混合比(ストイキ)での燃焼よりも、リーン側の希薄燃焼が適していますが、三元触媒によるNOx低減ではリーン域でのNOxの還元反応がそのままでは進まないので不利となります。このためNOx吸蔵型の触媒装置も開発されました。
一方、シリンダ内に直接燃料を噴射し火炎伝播を制御して、トータルではリーンバーン(全域ではない)を実現する技術も広まりました。これは燃費的には有利ですが、噴霧燃料から粒子状物質が生成する技術課題がありその規制も行われるようになりました。この問題に対応するためのさらなる技術開発が求められています。