車に慣性抵抗を与えるため、試験車の重量に応じて規定された等価慣性質量をシャシダイナモメータに設定します。シャシダイナモでは、駆動輪を載せた回転ローラにその慣性力が抵抗として作用するよう機能しますが、その方法として車ごとに定められた等価慣性質量に応じてフライホィール(慣性盤)の組み合わせを選択する方式が以前は使われていましたが、設備が大がかりになること、慣性盤の製作・加工に高い精度が求められることから、現在は動力計側の吸収トルクを設定等価慣性質量と運転時の実加速度に応じてリアルタイム制御する方式で慣性力相当の抵抗力を試験車に与える電気慣性方式が主流となっています。
走行抵抗のうち空気抵抗は車の速度と車体形状によって変わり、ころがり抵抗も装着タイヤの違い等に影響されます。したがってこうした走行抵抗は、実際にテストコース上を走行することで実測します。測定はコース上で車を自然惰行させて、その時の減速時間を測定することにより車ごとに走行抵抗を求めます。測定された走行抵抗は、その時の風や気温、気圧の影響を補正して標準状態(20℃、1気圧)の走行抵抗に補正し、これをシャシダイナモメータ試験時の目標走行抵抗として設定します。
上図の車両冷却ファンは、台上走行中の車速と同じ風速が試験車に当たるように自動制御されます。これは向かい風相当の風がシャシダイナモ上の試験車の前面に当たるようにするための措置です。つまりエンジンや排気系触媒装置等の冷却条件を実走行条件に近付けるためのものであって、空気抵抗を発生させるためではありません。車両の冷却条件を実走行時に近付けるには、冷却ファンの開口部の幅と高さにも配慮が必要ですが、冷却ファンを大型化するとそれだけ設置費用がかさむ問題があります。排出ガスや燃費の試験規定には、冷却ファンの開口部に関する最低限の規定が設けられています。
室内試験で実走行時と同等の負荷をエンジンに与えるのが、シャシダイナモメータの主な役割です。具体的には、ローラの回転軸と直結した電気動力計が、発電機と同じ原理によって車の駆動輪の発生力を電力エネルギーに変換することで吸収し、これにより車側の駆動輪に走行抵抗が作用するようにします。この抵抗値が、実走行時と同じ力になるように電気動力計の発電量を自動制御しています。この時に発電したエネルギーは、試験室の電力ラインに戻されます。一方、車が減速する条件の時は、動力計側がローラに回転力を与えることで、マイナスの慣性力(実走行時に車が前方向に進み続けようとする力)としてタイヤ側に伝えられます。この減速域ではドライバーが減速時の速度指令パターンの動きに応じて車側のブレーキ操作を行うことで速度調整を行います。このようにして実際の運転に近い慣性力と走行抵抗が台上の試験車に与えられるので、室内試験でもアクセルやブレーキの操作に関して路上走行と同じような自然な運転感覚が得られます。
ローラ上に設置した試験車に、実走行条件にできるだけ近い条件を与えるのが右図のシャシダイナモメータの役目です。試験車の走らせ方として、規定通りの速度変化で車を運転するだけでなく、その時にエンジンに加わる負荷が実走行時と同等になるようにすることが重要で、これを実現するのがシャシダイナモメータです。
車が走行する際には、ころがり抵抗や空気抵抗が抵抗となり、これらはエンジンの負荷になります。さらに加減速時は、車の[空車重量+積載物]がもたらす慣性力とエンジン、タイヤなどの回転部分の慣性モーメントによる回転慣性力が作用するので、これもエンジンの負荷になります。こうした実走行時のエンジン負荷状態を再現するために、シャシダイナモメータは試験車の駆動輪を介して実走行時と同等の抵抗力がエンジンに作用するようにします。
P.6 : 5. 排出ガス・燃費試験用シャシダイナモメータの性能要件、評価基準
(1) 電気慣性式シャシダイナモメータの性能評価法の要点
P.7 : (2) 4WDシャシダイナモメータの性能評価法の要点
①4WD車の試験における現状の問題点
②4WD車用シャシダイナモメータの機能検証のための
基準の考え方
③4WD車用シャシダイナモメータの性能評価ツール
P.8 : ④4WDシャシダイナモメータの性能評価指標
・4WDシャシダイナモの走行負荷制御性能の評価法
と許容範囲
・前後ローラ等速性の評価指標と許容範囲
P.9 : ⑤JATAの4WDシャシダイナモメータの制御能力の評価結果
・負荷制御能力の評価結果
・前後等速性の制御能力の評価結果
G.シャシダイナモメータによる車両評価
シャシダイナモメータによる車両評価のページでは、以下のような内容を各々のページで解説しています。
(下記の各ページの青色で示すページ番号をクリックすると、直接そのページに飛ぶことができます)
P.1 : 1. シャシダイナモメータとは
P.2 : 2. モード試験におけるシャシダイナモメータの負荷制御
P.3 : 3. シャシダイナモメータの方式、種類
(1) 慣性力の吸収方式による種別
・機械慣性式シャシダイナモメータ
・電気慣性式シャシダイナモメータ
P.4: (2) 試験車の駆動方式の対応したシャシダイナモの種別
・2WD車用シャシダイナモメータ
・4WD車用シャシダイナモメータ
P.5 : 4. JATA昭島研究室の4WDシャシダイナモメータ
(1) 4WDシャシダイナモメータの使用目的
(2) JATAにおける4WDシャシダイナモメータの役割
(3) 基本スペック
同じ車速変化で走行した時に実走行とシャシダイナモ上走行でエンジンの負荷が同等になるのが理想ですが、タイヤをローラ上で回すだけでは実現しません。例えば実走行では車速相当の向かい風が車の空気抵抗になりますが、シャシダイナモ上では車体が静止しているので、そのままでは空気抵抗が作用しません。またタイヤと舗装路面との間の摩擦抵抗は、シャシダイナモ上に設置されたタイヤと平滑な金属表面のローラとの間の摩擦抵抗とは当然異なってきます。さらにシャシダイナモの回転ローラには曲率があるため、タイヤ接地部周辺のゴム部材の変形状態も実路とは異なっています。さらに実路上で加減速走行すると、車の質量や回転部分の慣性モーメントが慣性抵抗となりますが、シャシダイナモ試験では車自身が移動する訳ではないので、そのままでは車両の質量に起因する慣性抵抗が車に作用しません。
1.シャシダイナモメータとは
乗用車や小型トラックなどの中・軽量自動車の排出ガス試験や燃費試験では、室内の試験室で試験車をシャシダイナモメータ上に設置し、国が定めた試験モードを走行させて排気管から放出されるCO、HC、NOx、CO2の総排出量を測定して、モード排出ガス量(g/km)や燃費値(km/L)を算出することになっています。シャシダイナモメータはこれらの評価値を測定する上で、試験車の運転条件を規定することになる基本的な設備です
排出ガスや燃費の試験方法の基本は、評価対象の車が実走行する時の状態にできるだけ近い条件を試験室で再現して、その際の排出ガス量や燃料消費量を実測することです。ただ試験車の運転方法(速度変化)を統一しておかないと評価や比較ができませんので、都市内や郊外の平均的な走り方のデータを元に試験走行モードが決められます。現在我が国で排出ガスや燃費の試験に使われるモードは、都市内走行を模擬したJC08モードと呼ばれる20分間の走行パターンですが、今後は国際統一基準モードであるWLTCモードに順次切り替えられていきます。
公益財団法人日本自動車輸送技術協会は、自動車の安全確保、環境保全に役立つ各種の試験、調査、研究を行うことで社会に貢献しています。