図9 タイヤ温度の違いが転がり抵抗に与える影響度(タイヤ試験機による測定結果)
テストコースの路面温度は、環境条件、例えば外気温度と日射量、自然風の風速やこれらの履歴によって変化します。さらには季節的要因や試験実施時の時間帯によっても大幅に変化します。一方、シャシダイナモメータ設備は、試験室内に設置された専用の空調設備により室内の温度条件がほぼ一定に保たれるのが普通ですので、屋外での試験に比べて転がり抵抗の変動要因はかなり小さいと言えます。ただしタイヤ表面が直接接触するローラは、回転機器や電源設備、付属設備などとともに地下ピット内に設置されているため、ピット内の温度条件に影響されます。ピット室内の温度を試験室内とは独立にコントロールする専用の空調設備が備えられていない場合には、車両試験中にローラ表面温度が試験室内の温度よりも上昇することが考えられます。昇温したローラの熱がタイヤに伝わることで、タイヤが昇温し、その結果として転がり抵抗が変わる場合もあります。
さらに回転するタイヤは、その周辺を流れる気流によって温められたり、あるいは逆に冷やされたりもするので、車両に対する冷却風の当たり方によってタイヤの温度条件が変わってきます。台上試験の場合には、車両前方に設置された冷却ファンの開口部の大きさや形状によって、タイヤ近傍の熱源(エンジン、排気管、触媒装置等)からの輻射熱や、車両床下への冷却風の回り込みなどにより対流伝熱の状態が変わってきます。つまりタイヤ周りの気流の状態によってタイヤ温度が変化することから、結果的に転がり抵抗の測定結果が変動することが考えられます。
図8 路面上とローラ上でタイヤに加わる圧力の違いと転がり抵抗への影響
②タイヤ温度条件違いの影響
タイヤのゴム部材は、温度が上昇するほど転がり抵抗が低下する性質があります。図9は、ローラ室とタイヤ室の温度を制御する機能を備えた先進タイヤ試験装置
[(株)小野測器製]を用いて、両室の制御温度を変化させた条件のもとでタイヤの転がり抵抗を測定した結果です。どのタイヤでも、タイヤの温度が上がるにつれて転がり抵抗が低下することが明かです。なお回転しているタイヤの温度は、走行中の自身の発熱による温度上昇の他に、タイヤ周辺の気流の状態、タイヤトレッド面が接する路面やローラの表面温度条件によって変わってきます。すなわちタイヤの受放熱の状態に大きく左右されます。車体床下を流れる気流すなわち路上走行時における走行風(向かい風)あるいはシャシダイナモ試験での車両冷却ファンからの風の当たり方による冷却効果、さらにはタイヤ近くにある熱源(エンジン、排気管、触媒装置等)との間で熱交換に伴う昇温効果も考えられるので、これらの条件は走行中のタイヤ温度を変化させる要因になります。
これらのことから、タイヤ温度が試験条件によって異なってくると、実路とローラ上でのころがり抵抗の測定結果に違いが生じることが予想されます。その意味では、シャシダイナモ上で転がり抵抗を測定する際には、路上走行時とできるだけ同等な気流条件を試験車に与えることが望ましいと言えます。
図10 実路上とシャシダイナモローラ上でのタイヤの動作条件の違いと転がり抵抗への影響要素
8.路面上とローラ上の条件違いが転がり抵抗の測定結果に違いをもたらすメカニズムについて
①タイヤ接触面の形状違いによる影響
路面及びローラ上に設置されたタイヤには、車体の軸重が加わるために、その圧力でタイヤ設置面とその周辺部位が変形します。なお路面上は基本的に平面とみなせるので、設置面の曲率はほぼ無いといえます。一方、シャシダイナモメータ上では、曲率のあるローラ上にタイヤが設置されるので、タイヤの接地面積が路面に比べて小さくなります。その分タイヤ接地面での変形圧力が増加します。タイヤの転がり抵抗というのは、回転に伴って接地部周囲のゴム部材が、圧縮変形⇔復元を繰り返しながら回転することによるエネルギー損失の結果で生じたものです。タイヤの変形状態は、接地面の曲率によってに違いが生じますので、これが転がり抵抗差をもたらす原因になります。
タイヤ接地面が平面の場合とローラの場合のそれぞれタイヤ面に加わる圧力の違いを図8のプレスケール図(実測)に示します。接地面積の大きさがフラット面とローラ面では明らかに異なっていることがわかります。
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図7 路上走行条件とシャシダイナモ上走行条件での転がり抵抗への影響要因とその影響補正
試験車の走行抵抗は、普通はテストコース上の惰行試験によって測定しますが、前ページに記載したように自然風や路面温度の変化など様々な不安定要因が影響するので、安定した計測値を得ることが難しいという問題が指摘されていました。そこで4WDシャシダイナモメー上の試験によって試験車の転がり抵抗を安定して確実に測定することが可能かを、自動車技術会規格委員会シャシダイナモ試験法分科会で検討することになりました。この検討では、タイヤが接する実際の路面上とシャシダイナモメータのローラ上の違いが、転がり抵抗に違いをもたらす要因を調査分析する必要があります。さらにシャシダイナモ上で転がり抵抗を測定する際の具体的方法を定める必要があります。特に路上試験とシャシダイナモ試験の条件上の違いが原因で必然的に生じる転がり抵抗の差を適切な方法で補正することによって、路上走行時の転がり抵抗に換算することが重要になります。
実際の路面上とシャシダイナモメータのローラ上の間で、転がり抵抗に違いを生じさせる主な要因を図7にまとめました。両者に転がり抵抗差を生む主な原因としては、①タイヤ接触面の曲率の有無によるタイヤ変形状態の違い、②実路面とローラ上でのタイヤ温度違いの影響の2つが考えられます。このうち②のタイヤ温度に関しては、路面温度とローラ温度の違いだけでなく、試験車の床下を流れる気流の状態並びに車側の熱源(エンジン、排気管)とタイヤとの受放熱が関係してきます。
7.路上走行時とローラ上走行時で転がり抵抗に違いが生じる要因
2.目標走行走行抵抗相当の負荷を台上の試験車に付加する方法
公益財団法人日本自動車輸送技術協会は、自動車の安全確保、環境保全に役立つ各種の試験、調査、研究を行うことで社会に貢献しています。