図8 実車対応の風洞試験システムの例
図7 4WD車用シャシダイナモメータ試験システム
しかし図5の中の目標走行抵抗に、惰行試験時の気象条件の影響等による不安定要素が含まれている場合には、試験車がシャシダイナモメータ上で行う仕事量も本来再現すべき負荷とは異なってくることが考えられます。つまりモード燃費や電費の試験結果にその影響が出てしまうことになります。このことから走行抵抗を測定する際には、可能な限り不安定要素が入らないようにする必要があります。こうした不安定性を回避するためには、安定した環境条件のもとで行える室内試験によって走行抵抗を測定することが最も有効と考えられます。そこで自動車技術会に設置された「シャシダイナモ試験法分科会」では、転がり抵抗測定のための室内試験法のあり方を検討することにしました。その検討結果並びにそれに基づいて新たに制定された転がり抵抗の台上測定法に関する新しいJASO規格(自動車規格)について、以降のページで紹介していくことにします。
室内試験法の標準化に関する予備検討を実施した結果、解決策の第1弾として取り組んだのが、シャシダイナモメータを用いた派生車両の走行抵抗測定法(差分法)です。この差分法は、派生車の基になった車(ベース車)とそこからタイヤ、変速機、エンジン等に若干の変更が加えられた車(派生車)のローラ上での転がり抵抗抵抗の差を台上測定することによって、派生車の走行抵抗を室内試験のみで導く手法です。この場合は、図6に示すようにベース車の走行抵抗は従来通りテストコース上で測定することになりますが、派生車(構造面でベース車とはいくつか異なる部分があるものの、空気抵抗が変わるほどの外観形状には違いが無い車)の転がり抵抗は、ベース車と派生車の転がり抵抗の差分を4WDシャシダイナモ上で測定し、その差分を使って派生車の走行抵抗を算出する方法です。その点では、ベース車の走行抵抗測定では前ページに示した屋外試験での気象条件等の変動影響を回避できませんが、ベース車より種類の多い派生車に関しては、屋外試験における不安定要素が排除できます。この差分法については、当分科会において最終的にJASO
E015として規格化しました(2016年3月)。このJASO E015の内容、方法等については、→こちらの技術解説のページに詳しく解説してありますので、ご覧ください。
6.1 室内試験法その1ー差分法について
6.2 4WDシャシダイナモを用いた転がり抵抗の直接測定法
図6 ベース車と派生車の転がり抵抗の差を測定することで派生車の走行抵抗を求める手法の手順
JASO E015の差分法に続いて当分科会では、試験車の転がり抵抗を図7に示すような4WDシャシダイナモメータ設備によって直接測定する手法の可能性を検討しました。この試験は空調設備を備えた試験室内で行われるので、大気温度や風など外気条件の変動影響はほぼ排除できることになります。つまり最も安定した条件で走行抵抗の測定が実施できるという期待があります。
分科会では、ほぼ2年に渡って予備的検討、4WD用シャシダイナモでの実験及びタイヤ単体実験などを行い、収集したデータの解析を行いました。その結果は、自動車技術会学術講演会の場で分科会メンバーにより研究発表を行いました。また新規格として「4WDシャシダイナモメータによる転がり抵抗測定法に関する自動車規格(JASO
E017)」を2020年3月に策定しました。これらの内容については、次ページ以降で順次紹介していくことにします
このJASO E017の方法は、4WDシャシダイナモメータ上で惰行法または定速度法により個別の試験車の転がり抵抗を直接測定でき方法です。当然ですがシャシダイナモ設備では空気抵抗は測定できないので、各試験車の空気抵抗は風洞設備によって別途測定することになります。風洞試験装置の場合も気象条件の影響は受けないので、不安定要素は回避できます。風洞試験法については、図8に例示するように実車をそのまま風洞設備の中に設置し、路上走行のようにタイヤをムービングベルト上で回転させた状態で車体の空気抵抗が測定できる大がかりな設備を試験機関や自動車メーカー等で既に設置しているところがあります。風洞法自体は、流体力学の進歩や風洞設備、関連設備の大幅な進歩等を経て、車の空力抵抗を求めるための方法論としてはほぼ十分な機能を備えているといえるでしょう。また風洞法以外にも、流体シミュレーション法を活用して前面風速に応じた車体周辺の空気流れを解析し、車体の外観形状などのデータを使って空力抵抗を計算で求める方法などにも今後の実用化の期待がかかります。
6.室内試験で転がり抵抗を求める方法の検討(自動車技術会シャシダイナモ試験法分科会における活動の紹介)
公益社団法人自動車技術会では、試験機関の研究者や自動車メーカー、試験設備機器メーカーの技術者などの専門家で構成された「シャシダイナモ試験法分科会(2013年~)」の活動の中で、燃費評価に際しての不安定要素を減じる方策、つまり室内試験による走行抵抗測定法について検討することになりました。
検討メンバーの中での議論では、そもそも屋外のテストコースの試験では、天候や気象条件の変化や不安定性が避けられないこと、またこうした変動影響を織り込んで正確に補正する方法も難しい点が多いことから、路上での惰行試験によって車の走行抵抗を安定して計測するのは、もともと無理なのではないかという意見が出ました。
そこでこの問題を抜本的に解決する手段として、走行抵抗を室内試験によって測定する方法を検討してはどうかということになりました。具体的には、4WDシャシダイナモ設備によって試験車の走行抵抗を直接測定する方法です。もちろんテストコースの路面とシャシダイナモメータのローラ上とでは、特にタイヤの回転抵抗に及ぼする影響度がかなり異なっていることから、この問題への対処方法も併せて検討する必要がありました。
図4 路上惰行試験の結果から目標走行抵抗を算出する方法
試験車の走行抵抗は、普通はテストコース上の惰行試験によって測定されます。この試験中に計測した大気環境条件データ(大気温度、大気圧、風速(試験車の進行方向成分)を使って、標準大気状態(20℃、1気圧、無風)での走行抵抗に換算します。これを目標走行抵抗として定め、モード試験での負荷を設定します。ちなみに目標走行抵抗というのは、モード試験時にシャシダイナモメータで再現して試験車の駆動系に与えるべき走行抵抗であり、各速度域ごとの負荷としてシャシダイナモメータから試験車に与えます。この時シャシダイナモメータの制御装置は、車速の関数形(FR =A0+B0V+C0V2)となるように電気動力計の吸収トルクをコントロールします。目標走行抵抗を車速の2次式とするために、惰行試験で各速度域ごとに採取した走行抵抗データ群に対して、最小二乗法を適用して2次近似式の係数A,B,C
の値を決定します。(図4参照)
さらに電気動力計に対しては、試験車の慣性負荷として慣性力相当のトルクを加算するような制御指令も与えます。
4.シャシダイナモ上でモード試験を行う際の目標走行抵抗の設定
図5 シャシダイナモメータが目標走行抵抗相当の負荷を試験車に与える方法
実路惰行試験時の大気環境条件を補正して求めた目標走行抵抗は、タイヤ4輪が回転した状態での全ころがり抵抗および空気抵抗の合計です。一方、シャシダイナモ上で試験車を運転する際は、そのままでは空気抵抗並びに非駆動輪側(2WDシャシダイナモ上ではローラ非回転となる側)のころがり抵抗は車に作用しません。そこでモード試験では、目標走行抵抗とシャシダイナモ上走行時に車側で自然発生するころがり抵抗の差FCHDYが抵抗力として試験車の駆動輪に加わるように、シャシダイナモメータの電気動力計の吸収トルクが制御されます。そのイメージを図5に示します。(この図は2WDシャシダイナモメータで試験する場合の例)
4WDシャシダイナモメータで試験する場合には、前輪側と後輪側の合計の負荷が目標走行抵抗に一致させる制御と、前輪側と後輪側の各ローラの回転速度が常に同期するように前後トルクの分配比を調整する2つの制御要件を同時に満足させるように、前後用の各電気動力計のトルクをリアルタイム制御しています。
5.目標走行走行抵抗相当の負荷を台上の試験車に付加する方法
公益財団法人日本自動車輸送技術協会は、自動車の安全確保、環境保全に役立つ各種の試験、調査、研究を行うことで社会に貢献しています。