2WD専用シャシダイナモメータでの試験(左図)及び4WD対応シャシダイナモメータによる試験(右図)
水平均等4点方式のチェーン引張式車両拘束のイメージ
しかし最近の車では、チェーンを掛ける際に用いる車両牽引用フックが車体の前後の各1カ所づつしかない車もあり、しかも各フックが左右のどちらかに偏って配置されている例も多く見られます。さらに車体の構造上、チェ-ンを水平に張ることが難しいケースもあります。
一方、最近わが国が排出ガス・燃費試験に取り入れられたWLTC走行モード(世界統一基準モード)では、以前の国内向けのJC08モードよりも急激な加減速度が含まれる運転域が含まれるために、結果として試験車の牽引フック(固定点)にはより大きな力がチェーン側から拘束力として加わることになります。結果的にフック部分に過大な力が作用するようになるため、条件次第では車体側拘束点の部材の変形や破損等が生じる可能性があります。最悪の場合には、加速中にチェーンがはずれて、試験車がローラから前方に飛び出すといった異常事態が生じる危険性も予想されます。つまり車両拘束は、シャシダイナモ試験における安全上の問題にも直結しています。また後述しますが、車両拘束の仕方によっては、台上試験車のころがり抵抗が増加する場合があり、これは特に燃費計測の上では好ましくない影響がもたらされます。
こうした車両拘束に伴う様々な問題に対処するため、自動車技術会のシャシダイナモ試験法分科会では、4WDシャシダイナモメータを用いた台上試験において安全性が十分に確保されているか、また車両拘束条件が走行抵抗に影響することで燃費計測に悪い影響を及ぼさないか、などを事前に調べられるようにすることを目的に、車両拘束方法に関する規格を制定することになりました。
FF車における車両固定方法の例
一般的な2輪駆動車の試験では、2WD車用シャシダイナモメータ上で試験車の駆動輪のみを回してモード走行を行い、排出ガスや燃費等を測定します。ちなみに試験中の車両飛び出しを防止するために、右図に示すように回転しない非駆動輪を試験室床面にしっかりと固定します。なお前輪駆動(FF)車の場合は、非駆動輪である後輪側を右図のように固定していても、操舵系につながっている前輪が回転することで、前輪タイヤがローラ上を横に移動、すなわち車体の横ブレが発生しやすくなります。これを防ぐには、車体の前側にロープやチェーンをかけて車体の左右への動きを抑制する対策が必要になります。
4WDシャシダイナモメータ上で行う試験(車の4輪を常に回転させる方式)では、上左図のような非駆動輪を床面に固定する方法が使えないので、台上からの車両の飛び出しや運転中の車両横振れを防ぐ目的で、試験車がローラ上から移動しないように車体をしっかりと固定(拘束)することが必須になります。
試験機関などを対象にしたアンケート調査の結果では、車両の拘束方法として車体前後の牽引用フック等にチェーンやワイヤーを掛け、もう一方の端を試験室の固定用ポール(支柱)につないだ上で、そのチェーン等に適正な張力を加えて強く引くことで、車両を確実に固縛する方法が多く使われていることがわかりました。ちなみにモード試験に使用するシャシダイナモメータの性能要件を定めた自動車規格(JASO
E014)によると、4WDシャシダイナモメータの試験の場合は、車体前後の4カ所から水平、左右対称にチェーンを張る拘束方法(下図参照)が推奨されています。
なお最近の2輪駆動車では、車に搭載されている自己診断(OBD)装置が走行中に4輪が回転していることを常に監視していて、下左図のように非駆動輪が回転していない状態の走行では、車両が異常と判断して警報モードに入ってしまう車があります。こうなるとシャシダイナモメータ上で正常な運転ができなくなるので、試験のための方策として車載の制御システムに外部から手を加えて、車が警報モードに入らないようにする試験方法が考えられます。ただしそれを行うには、当該車の制御システムや電子回路に関する専門的な知識が必要な上に、そもそも車の制御系を人為的に変えた状態で排出ガスや燃費のモード試験を受けるというのは、試験の公正性の観点から問題だとする意見もあります。
そうなると2WDシャシダイナモメータでは、台上モード試験ができなくなってしまいます。こうした事情を踏まえて、下の右図のように4WD シャシダイナモメータを使用して2WD車の排出ガス試験、燃費試験を行うケースも多くなっています。
このような背景から、4WD シャシダイナモメータを使用して燃費試験や排出ガス試験を行うことが、今後さらに増加するものと予想されます。
車両をシャシダイナモメータ上に設置して排出ガス・燃費のモード試験を行う際は、試験車を固定(拘束)する必要があります。試験車をローラ上で運転すると、車の駆動輪が必要に応じて推進力(エンジンの力でタイヤがローラを蹴る力)を発生しますが、この時にシャシダイナモメータ側の電気動力計は、走行抵抗相当の力(制動力)を発生させて駆動輪の発生力に対抗します。車の推進力がこの制動力を上回っていれば車がローラ上を加速していきますが、この時に車体が固定(拘束)されていなければ、試験車がローラ上を飛び出して前方に設置された機器類(車両冷却ファンなど)に衝突してしまう危険性が生じます。またハンドルがフリーな状態では、走行中に試験車が左右に移動して曲がった状態になってしまうしまうこともあります。こうした事態を防止する意味から、試験前に車を固定する作業(車両拘束)が不可欠となります。
1.シャシダイナモメータ試験における車体拘束の必要性
公益財団法人日本自動車輸送技術協会は、自動車の安全確保、環境保全に役立つ各種の試験、調査、研究を行うことで社会に貢献しています。