コールドスタートのモード試験を実施するまでの一般的な流れ
負荷設定時とモード試験時の車両拘束条件の同等性を確認する手段として、JASO E016では拘束状態を定量化された数値で表す方法を規格化しました。(その具体的方法については、次ページ以降を参照) ただしコールドスタート試験という制約から、本試験時の拘束条件の評価は、モード試験の終了後、つまり事後チェックとならざるをえません。
負荷設定・調整後の拘束条件の評価結果と本試験(モード運転)直後の拘束条件の評価結果の間に無視できないほどの差が生じていた場合は、試験車の負荷が適切に与えられていない状態で燃費計測が行われたと推測されます。つまり本試験結果の有効性を見直す必要があるかもしれません。
この車両拘束の評価方法と定量化の指数は、モード燃費値の計測などを確実かつ再現性良く行っていく上で、きわめて有用なツールであるといえます。
JASO E016は、コールドスタート試験における負荷設定上の以下の問題解決に役立ちます。
このJASO E016により、シャシダイナモメータ試験を数多く行っている試験現場に対して有用な支援ツールとなることが期待されます。
高価なシャシダイナモ設備はできるだけ効率的に活用・運用して多数の車の試験を高密度に行いたいという現場の強い要求があります。なお現在は、我が国も国際統一基準のもとでコールドスタートのみによる排出ガス・燃費試験(WLTCモード)が実施されていますので、まずその流れと課題について説明しておきます。
●コールドスタート試験の一般的な流れ
まずシャシダイナモ上に対象の試験車を載せてから、車両拘束のための作業を行います。その後、車を十分暖機した後、目標の走行抵抗(路上惰行試験の結果を基に試験法に規定された方法で求めた走行抵抗式)の係数や等価慣性質量などの値を制御装置に設定します。次にシャシダイナモ上で試験車を惰行させて、設定された負荷の検証と目標の範囲からずれていた場合の再調整などを行います。
負荷設定終了後、ローラ上から一度車両を降ろして別室のソークルームに移動し、一定時間放置します。これはコールドスタート試験での車両各所の温度を規定条件に合わせるための手順です。高価な試験設備を有効に運用する観点から、先ほど使用したシャシダイナモメータには別の順番待ちの試験車を乗せ換えて、同様に負荷設定、負荷検証等等の一連の試験準備作業を行います。こうした方法を取ることで、高価な試験設備を効率的・高密度に運用したいという現場の要求に応えます。。
コールドスタートの本試験(燃費・排出ガス測定)の直前に、ソーク室から試験車のエンジンをかけずに人力でシャシダイナモ上まで移動してローラ上に設置します。そこで車両拘束等の作業を再度行った後に、エンジンを始動(コールドスタート)させて、直ちに所定のモード走行と燃費及び排出ガスの測定を行います。これが試験法に沿った流れとなります。
(この一連の手順は、下記の写真に示す流れを参照)
●コールドスタート試験を実施する上での課題
本試験では、前日に実施した走行抵抗設定時の車両拘束条件と同一の拘束条件になっていないと、台上における実際の転がり抵抗が変化してしまう可能性があります。すなわち前日に走行抵抗を正確に設定した意味が薄れてしまいます。しかしながら、コールドスタート試験に入る前はローラ上でタイヤを回すことができないので、試験車の負荷条件の同一性を事前に確認することは不可能です。
そもそも車両拘束条件を、定量的な指標で示すという手段がなかったので、車両拘束条件の同一性を検証する手段というのは用意されていませんでした。
①モード走行中の車体側拘束箇所の破損、変形などを防止する車両拘束上の注意点が示されたことで、4WDシャシダイナモ試験時の安全性が向上することが期待されます。
②試験車の種類や、車体側の拘束点の配置等を踏まえて、適切な車両拘束方法に関する手順や注意点が具体的に示されており、試験の合理化、公正化につながることが期待できます。
③車両拘束状態の適否を判断するための評価方法と定量的な評価指標が規定化されたので、試験車の条件に応じた適正な車両拘束が実現することになり、台上走行抵抗の不安定化を抑止することが期待されます。
④このことは、モード試験、特に燃費計測の安定化に役立ちます。
JASO E016では、次のような効果が広く期待できます。
8.車両拘束法に関するJASO E016の活用方法及び期待される効果
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