図E-消費電力量とASR仕事の相関性
図D-各種拘束条件でのASR仕事と車両駆動仕事の比較
 また,下の図Eに示すように,瞬時消費電力の積算とASR仕事の間には相関性があり,ASR仕事評価が車両駆動状態で発生する動的な車両ロス影響を車両拘束条件別に反映できていることが確認されたことで、ASR仕事評価法の妥当性が検証できたと考えます。
 JASO E016に規定されたALR仕事とASR仕事に基づく評価方法が,車両駆動状態で発生する動的な車両ロスの影響を車両拘束条件別に適切に反映されているかを検証するため,シャシダイナモ試験法分科会では電動車両を用いた実験を実施し、車両駆動時のバッテリー消費電力量とALR仕事,ASR仕事の各評価方法との比較分析を行いました。結果を下の図Dに示します。なお,評価条件を合わせるため車両駆動時の動的ロスは50ms毎の瞬時電力を積算し,ASR仕事の計算処理と同様に,マイナス慣性力が作用して車両側のロス仕事が実質ゼロになる状態(走行抵抗式から計算)やアイドリング時のデータは,モード仕事量の積算には加えていません。

 図Dの結果より,車両拘束別のそれぞれの仕事変化は同一の傾向となり,かつ前ページの下に示す車両走行時の車両ロス,ASR仕事とALR仕事の積み上げイメージの図とも傾向が合致していることが確認されました。

評価の妥当性の検証

図C 車両拘束条件別のASR仕事の算出結果の例

JASO E016解説編 より)

 ASR仕事評価法とは、台上の試験車に排出ガス・燃費試験のモードと同じ速度変化を与えた上で、その時に計測されたローラ表面力(回転駆動力)とローラの回転速度の各瞬時値から、モードの仕事量(ASR仕事量)を算出する方法です。ASR駆動でタイヤを外部から駆動した時のローラ表面力は,モード走行における各瞬間の車両側の抵抗力が反映されています。このローラ表面力には,モードの速度変化時の車両側回転部分の慣性抵抗も含まれます。さらに車側のころがり抵抗(動力伝達ロス+タイヤロス)の他に,車両拘束に伴って生じた車体への外力によりもたらされた走行抵抗の増加分も含まれます。つまりASR仕事が小さくなる拘束法ほど車由来の抵抗力に近づくといえるので、拘束条件の評価としてはより適切な指標であると考えられます.例えば車両拘束条件に左右されやすい車体の位置移動で生じたタイヤ損失の増加分は、ASR駆動時のローラ表面力に反映されるので、ASR仕事は,モード走行により近い状態で車両拘束の影響度を評価できる判定指標となります。拘束条件の適否を見る上では,ASR仕事が相対的に低いほど,車両拘束に伴う車両側ロスの増加が少なくなるので,拘束条件としてはより理想に近い状態にあることを意味します。
 実際の車両によるモード走行では,車両ロス区間仕事にシャシダイナモ吸収区間仕事を加えたASR仕事が車両に与える影響となります。下の図C6に車両拘束条件別,拘束を管理した場合と管理しない場合の仕事の算出結果を比較したものです。このように拘束を適切に管理することで、拘束条件別に比較しても4点チェーン式との差が小さく,拘束を管理しない状態では4点チェーン式との差が大きくなる傾向にあります。
 ASR仕事評価では,車両および拘束状態を含む,減速を除くヨー挙動を含めた車両ロスが測定できます。そのため,ローラ上で車両移動が大きい場合は車両ロス区間仕事も大きくなる傾向があります。ただしシャシダイナモメータが異なる場合の比較は,車両冷却ファン違い等の影響を受けるため,注意が必要です。

(2)ASR仕事による評価の特徴と評価結果の活用方策

図B-ALR仕事の車両拘束条件別の比較
図A-車両ロス区間仕事の車両拘束条件別の比較

 試験車がモード走行する際は,上記の車両ロス分のモード区間仕事にシャシダイナモ側で吸収した仕事分(空気抵抗分など路上走行分として加味された仕事)を加えた分、すなわちALR仕事が、車両への影響度を示す評価ファクターとなります。車両拘束方法の違いやヨーモーメント対策で張力管理を行った場合と管理をしない場合の仕事比較を下の図Bに示します。図Aの結果と同様に、拘束を適切に管理すれば4点チェーン式との差を少なくすることができ,一方で拘束を管理できていない状態では4点チェーン式との差が拡大してしまう傾向が示されています。
 以上の結果から,拘束を適切に管理することは,負荷設定時と実際のモード試験時の車両ロスの違いの影響を減らすことになるので、燃費測定の精度向上、安定化に役立つといえます。

 ALR仕事による評価では,モード走行後に台上惰行させた時のタイヤロスに対する車両拘束の影響度を見ることになります。この方法の具体的な使い方の例としては,走行抵抗設定時の惰行試験から算出されたALR仕事とコールドスタートのモード試験(燃費・排出ガスの測定)の直後に惰行試験を行って求めた車のALR仕事とを比較し,両者の一致度合から負荷設定時とモード試験時の車両拘束条件の同等性を検証すること等です。台上の惰行試験はどのような車両でも比較的容易に実施できるので,両方の拘束条件の違いを惰行時の転がり抵抗の差から数値化して示すことができます。この点からALR仕事評価法は、試験現場で導入しやすい拘束状態の検証方法であるというのが大きな特長でしょう。
 ただしALR仕事評価は,あくまでも台上惰行というひとつの走行条件のもとで測定された転がり抵抗からモード仕事量へ換算した値に基づく相対比較です。実際の台上モード試験では、車速や車両駆動力が刻々と変化するので、試験車の拘束条件が走行中の車両の位置ずれやタイヤの損失にどう影響し,その結果モード仕事量にどの程度の差が生じるかまでは把握できません。つまり実際の試験(モード走行)での拘束状態との関連性を直接的に把握しにくい点が評価手法としての弱点といえるでしょう。
 車両拘束方法の違い,及びヨーモーメント対策の有無(張力管理をした場合と管理しない場合ー8ページ参照)におけるALR仕事を求めた結果、つまり車両ロスに起因したモードの区間仕事(計算値)を本ページ下の図Aに示します。同図では、拘束方法としてJASO E014で推奨している水平4点チェーン式でのALR仕事との差(%)を車両拘束条件別に比較してあります。これらの結果から、拘束を適切に管理することで、最も安定な拘束方法といえる4点均等方式との差を少なくできる一方、拘束条件が適切に管理されていない場合には4点チェーン方式のALR仕事との差が拡大するので、モード燃費値に影響する可能性があることが示されています。


(1)ALR仕事による評価の特徴と評価結果の活用方策の例

   

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技術解説

技術解説ーシャシダイナモメータによる車両評価(Part2)ーシャシダイナモ続編版
       
   4WDシャシダイナモメータにおける車両拘束及びその評価方法13
                                        シャシダイナモ試験をJATAに委託するには
       
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